7:34
ワン・ホンカイ
WANG Hong-Kai
ボロム(風)
2020年 マルチメディア
可変 作家蔵
風は、定義としては空気の動き、力、呼気、におい、暗示、羅針盤、さらに英語では消化器官内のガスを指します。《ボロム(風)》(「ボロム」とは済州島の方言で「風」を意味します)において、風とは済州島で強く感じられる自然と政治の力のみならず、済州島における風景、言葉、音、生活を形づくる物質的かつ霊的な力のことです。
《ボロム(風)》は、在日朝鮮人の詩人、金時鐘による四・三蜂起への参加を出発点とする1949年の済州島から日本への逃避行を題材に、風の動きによる曲目を推測によってつくりだします。この曲目は、風と詩人、そして人間、神々、物質、生き物から出来事が多層的に遭遇することで構成されています。急進主義の歴史、神話、風景、地理、欲望、危険、難民、詩など、多種多様な網の目の関係を航行します。目撃する、願う、共謀する、記憶する、忘却する、警告する、感じる、そして聴く―それらの狭間から《ボロム(風)》は、何がさまざまな「連帯感」の手段を構成し/築いているのか、その「連帯感」(あるいは「親近感」)は、どのように空気、呼吸、ガス、作用の形式によって共有されているのか、を問いかけます。
何と言っても「風」はとらえどころがありません。まるで観衆、楽器、演奏者、設定が変わっていく旅の楽団のように、この作品は風の力学にも似て、次から次へと動いています。これらの曲目は複数の主観から引き出され、済州島から日本の海へと横断する金時鐘の記憶を追っています。金時鐘の軌跡に沿った風に導かれ、《ボロム(風)》は、距離と差異が根本的に接続する別の時空を想像し、探索し、発芽させます。もしかしたら、これらを共におこなう過程で、別の連帯感と場所や時間の結びつき、そして身体が出現するかもしれません。そうすると、そのような風の(としての)歴史は何の意味を持ち、どのように物事を明らかにするのでしょうか。
7:34
特別インタビュー & 声出演:金時鐘
(ワン・ホンカイによるインタビュー、姜信子&劉麟玉進行)
録音, デザイン & ミキシング:ガン・ギョンドク (LAMP Studio)
制作コーディネーター:権祥海
出演:ファン・グムニョ, ジョン・シンジ, カリッド・アダ, ソ・スンシル
ヨンドゥン・グッ(儀式):オ・ヨンブ
第5幕プレイリスト:希望の学校メンバー
翻訳:キム・ファヨン(韓国語-英語)、権祥海(日本語-韓国語)、ポーラ・ファラン(アラブ語-英語)、 詹慕如(日本語-中国語)、住友文彦、五十嵐純(英語-日本語)
金時鐘インタビューの文字起こし:千葉花子
校正:キム・ファヨン, 権祥海、住友文彦
リサーチ・アシスタント:鄭暁麗
冊子編集:権祥海
デザイン:寺澤由樹
謝辞:ベク・ガユン, ビル・ディーツ, エミリー・ワン, ハン・ジンオ, ホン・イジ, 希望の学校, ホー・ツーニェン, ガン・シンジャ, 管啓次郎, キム・インソン, キム・ソンネ, ゴ・ワンスン, イ・ドヒ, イ・ジュンハ, 劉麟玉, 柯念璞, パク・ウンヘ, ワルダ・レストラン, 陳瀅如, ヨン・スミ
制作委託:アーツ前橋、「聴く―共鳴する世界」展(2020年12月12日‐2021年3月21日)
助成:財団法人國家文化芸術基金會、済州ビエンナーレ
協力:東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科
作家略歴
台湾、虎尾生まれ、台北在住
ワン・ホンカイのリサーチに基づく実践は、生きた経験や力、そして「聴く」という行為が交わるところで、植民地的、ディアスポラ的な遭遇によって失われた、知の政治に向き合うものである。音の社会性について実験的な方法を用いる彼女の作品は、多くの学問領域にわたるもので、欲望の生産、労働の歴史、共生の経済を批判的に織り交ぜながら、異なる時空へと思考を巡らせている。ソフィア王妃芸術センター(ラジオ)、アジア・アートビエンナーレ2019、国際舞台芸術ミーティング2019in横浜、ニューヨーク彫刻センター、ドクメンタ14、台北ビエンナーレ2016、Liquid Architecture、ニューヨーク近代美術館など世界各地で発表を行う。第54回ヴェネチア・ビエンナーレ台湾館代表作家。
作品解説
風の吹く音、複数の人物の語り声、祈りの声や鐘の音など、来場者はいくつもの録音を順番に、あるいは同時に聴く。それは空気を震わせる風の音を基底に、異なる土地の記憶を内包する音が響き合うような経験だ。韓国、済州島の地図には、それらの音を採集した場所が示され、島の風景や生活、そこで聞こえてくる音において風が大きな役割を果たしていることを感じる。それは人々を遠くへ運び、歴史や神話、恐れや希望をもたらしてきた。とくに、風に精霊を見出す信仰をはじめ、ワン・ホンカイは人間ではない存在との出会いにも着目している。それは近代化によって失われつつある風習でもあり、人間が恣意的に設定した境界を越える可能性を感じさせる存在でもある。
また、この作品には二人の越境する人物が登場する。ひとりは済州島のレストランで働くパレスチナ難民の女性であり、もうひとりは1948年の民衆蜂起(四・三事件)のあと日本に亡命した詩人である。島に移り住む者と島から出た者――この二人の人生には戦争と政治弾圧の記憶が深く刻まれている。ひとつの場所を占めることなく、他の者とともにいるとはどういうことなのだろうか。聴くという行為のなかには、このように複数の出来事が互いを打ち消すことなく共存している。
展示写真
ワン・ホンカイ
台湾、虎尾生まれ、台北在住
ワン・ホンカイのリサーチに基づく実践は、生きた経験や力、そして「聴く」という行為が交わるところで、植民地的、ディアスポラ的な遭遇によって失われた、知の政治に向き合うものである。音の社会性について実験的な方法を用いる彼女の作品は、多くの学問領域にわたるもので、欲望の生産、労働の歴史、共生の経済を批判的に織り交ぜながら、異なる時空へと思考を巡らせている。ソフィア王妃芸術センター(ラジオ)、アジア・アートビエンナーレ2019、国際舞台芸術ミーティング2019in横浜、ニューヨーク彫刻センター、ドクメンタ14、台北ビエンナーレ2016、Liquid Architecture、ニューヨーク近代美術館など世界各地で発表を行う。第54回ヴェネチア・ビエンナーレ台湾館代表作家。